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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)130号 判決

愛知県大府市梶田町3丁目130番地

原告

株式会社名南製作所

同代表者代表取締役

長谷川克次

同訴訟代理人弁理士

石田喜樹

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

同指定代理人

粟津憲一

高橋詔男

中村友之

長澤正夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  特許庁が平成3年審判第493号事件について平成4年4月16日にした審決を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、拒絶査定を受け、不服審判請求をして審判請求が成り立たないとの審決を受けた原告が、審決は、引用例記載のものの技術的意義を誤認したため一致点の認定及び相違点の判断を誤り、また、本願考案と引用例記載のものとの技術的思想の差異を看過して相違点の判断を誤り、さらに本願考案の奏する作用効果の顕著性を看過したものであって、違法であるから、取り消されるべきであるとして審決の取消を請求した事件である。

一  判決の基礎となる事実

(特に証拠(本判決中に引用する書証は、いずれも成立に争いがない。)を掲げた事実のほかは当事者間に争いがない。)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年2月1日、名称を「単板の堆積装置」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願(昭和58年実用新案登録願第14288号)したところ、平成2年12月11日拒絶査定を受けたので、平成3年1月10日査定不服の審判を請求し、平成3年審判第493号事件として審理された結果、平成4年4月16日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年6月4日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

適宜手段によって堆積位置の上方に搬送された単板を、昇降自在な押圧体により押圧した状態で落下させ且つ堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積すべく構成して成る単板の堆積装置において、カム機構・クランク機構等から成る直動式の作動機構によって高速度で昇降せしめられる昇降基台の下方に、発条等から成る伸縮部材を介して押圧体を上下動可能に付設したことを特徴とする単板の堆積装置

(別紙第一参照)

3  審決の理由の要点

本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

これに対して、昭和40年特許出願公告第2920号公報(以下「引用例」という。)には、「本発明は切断ベニヤ単板の移送終点に該ベニヤ単板の衝接作用により作動するスイッチを装備し、かつその上に前記のスイッチの閉成により降下する圧下脚片を設け、該圧下脚片の降下作用でベニヤ単板を移送径路の下の台に順次積重ね、単板の降下で衝接したスイッチが開き、圧下脚片を上昇させることを特徴とするベニヤ単板積重機である」(1頁左欄22行ないし28行)、「図において1は機枠Aに支持された受枠、2は搬送用ベルト、3は受枠1の直下に設けた積重台、4は移送枠の直上に設けた油圧シリンダー、5はピストン杆で、下端に水平杆6’を取付けその両端に圧下脚片6、6を取付け、案内杆7、7間に位置したベニヤ単板8をピストン杆5の降下運動により圧下脚片6、6が案内杆7、7の内側を押圧してベニヤ単板の両端部を屈曲させ案内杆7、7より外し、台3上に積重ねるのである。」(1頁右欄1行ないし8行)、「本発明は叙上の構成であるから、単板を移送枠の終端にベルト移送することによって水平杆6’を降下させその両端の圧下脚片6、6でベニヤ単板を台3上に順次積重ねることができるのであって、積重ね作業が迅速円滑に行われ作業能率を向上させた実益多大な発明である。」(1頁右欄19行ないし23行)との記載が図面とともに記されている。また、第3図には、圧下脚片6の上方に発条の図示記載があるが、この発条については、第5図をも併せ考慮すると、水平杆6’の下方に該発条を介して圧下脚片6を上下動可能に付設した構成であることが十分に推認できる。

そこで、本願考案と引用例記載のものとを対比してみると、引用例記載のものの「圧下脚片6」、「積重機」、「油圧シリンダー4」、「水平杆6’」、「発条」は、その構造及び機能面からみて、本願考案の「押圧体」、「堆積装置」、「作動機構」、「昇降基台」、「伸縮部材」にそれぞれ相当するものであるから、両者は、次の一致点及び相違点を有するものである。

一致点

適宜手段によって堆積位置の上方に搬送された単板を、昇降自在な押圧体により押圧した状態で落下させ且つ堆積済み単板の堆積位置へ堆積すべく構成して成る単板の堆積装置において、作動機構によって昇降せしめられる昇降基台の下方に、発条等から成る伸縮部材を介して押圧体を上下動可能に付設した単板の堆積装置。

相違点

〈1〉堆積済み単板の堆積位置へ単板を堆積すべく、本願考案では、堆積済み単板に単板を押圧させて堆積するのに対し、引用例記載のものでは、この点の構成については定かでない点。

〈2〉作動機構が、本願考案では、カム機構、クランク機構等から成る直動式のものであるのに対し、引用例記載のものでは、油圧シリンダーから成る点。

〈3〉昇降基台を、本願考案では、「高速度」で昇降せしめるのに対し、引用例記載のものでは、この点については特に記載がない点。

次に、前記相違点について検討する。

相違点〈1〉については、堆積時に単板を安定して確実に拘束するために、堆積位置の上方に搬送された単板を、昇降自在な押圧体により押圧した状態で落下させ、かつ「堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積する」ものが、従来周知の技術(必要があれば、昭和52年特許出願公開第153568号公報参照)であり、しかも、引用例記載のものがこの「押圧させて堆積する」の構成を少なくとも排除する理由は、何も存在しないから、この従来周知の技術を引用例記載のものに適用して、相違点〈1〉における本願考案のように構成することは当業者が必要に応じてきわめて容易になし得ることである。

相違点〈2〉については、本願考案のカム機構、クランク機構からなる直動式の作動機構が、また引用例記載の油圧シリンダーから成る作動機構が、いずれも機械工学においては代表的な機械要素から成る作動機構であって例示するまでもなく従来周知の技術であるから、引用例記載の従来周知の油圧シリンダーから成る作動機構に代えて従来周知のカム機構、クランク機構等から成る直動式の作動機構を適用し、相違点〈2〉における本願考案のように構成することも、当業者が必要に応じてきわめて容易になし得ることである。

相違点〈3〉については、高速度で昇降させるという「高速度」の文言は、相対的なものであって比較対象が明確でない以上、別段この文言によって構成が特定されるものではなく、また、引用例記載のものも積重ね作業の作業性からみて当然に「高速度」を指向していると解せられるから、この点の差異は単に文言上のものであって構成に差異は認められない。

そして、本願考案の奏する作用効果も、引用例記載のもの及び前記従来周知の技術が有する各作用効果から、当業者が予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願考案は、引用例記載のもの及び前記従来周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  本願明細書に記載された本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果

(この項の認定は甲第5号証による。)

(1) 本願考案は、単板の堆積装置に関するもので、更に詳細には、適宜手段によって堆積位置の上方に搬送された単板を、昇降自在な押圧体により押圧した状態で落下させ且つ堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積するようにした、所謂押圧落下型の堆積装置の改良に関するものである(平成3年2月8日付手続補正書添附の明細書(以下「補正明細書」という。)1頁16行ないし2頁2行)。

従来、搬送コンベア・刺着コンベア等の搬送手段によって、昇降自在な堆積台上に設定した堆積位置の上方に単板を搬送するとともに、単板の上方に位置する押圧体を、流体シリンダーから成る作動機構で下降せしめることにより、該単板を押圧落下させて堆積位置へ堆積するようにしたシリンダー作動式の堆積装置が知られている。しかし、公知のとおり、シリンダーの応動性には限界があり、この種のシリンダー作動式の堆積装置では、必然的に堆積能率が低下するという欠点があった。また、押圧体を高速度で昇降せしめる手段としては、カム機構・クランク機構等の如く、動力が剛体を介して直ちに伝達される作動機構、所謂直動式の作動機構が有効であるが、作動工程が一定である直動式の作動機構により押圧体を昇降せしめるよう構成すると、多数枚の単板を堆積する過程において次のような問題が発生するため、結果的には実用性に乏しかった。すなわち、押圧落下型の堆積装置においては、公知のとおり、堆積済み単板の上面を光電管等から成る高さ検知器で検出し、所定高さに達する都度、堆積台を下降せしめて堆積位置を常時ほぼ一定の高さに保つことにより、搬入される単板との接触を回避しつつ堆積姿勢の安定化を図るようにしているのであるが、実際には、堆積済み単板は、各単板に存在する多数の微細な波打状のうねりあるいは補強用テープ等の存在によって、堆積済み単板の上面には堆積枚数が増加するにつれて徐々に平坦でなくなる傾向にある。このような場合、作動工程が一定である直動式の作動機構によって昇降される押圧体では確実に堆積済み単板に押圧することができないため、堆積の瞬間に残存する空気の抵抗によって正規の堆積位置からずれて堆積されることになる。更に言及すると、単板のずれは、単に堆積位置の悪化のみならず、他の単板と重ね合わせて合板に形成する場合等においては、合板の品質や単板の歩留りに重大な悪影響を及すので致命的であった。本願考案は、従来技術の有する上述の問題点を解決すべくなされたもので、単板固有のうねり等に起因して堆積枚数の増加につれて変化する堆積位置の平坦度にかかわりなく、単板を所定位置へ正確に精度良く堆積し、しかも能率良く堆積しうるようにすること(同2頁4行ないし6頁5行)を技術的課題(目的)とするものである。

(2) 本願考案は、前記技術的課題を解決するために本願考案の要旨(特許請求の範囲)記載の構成(補正明細書1頁5行ないし13行)を採用した。

(3) 本願考案は、堆積位置の上方に搬送された単板を、カム機構・クランク機構等から成る直動式の作動機構によって高速度で昇降せしめられる昇降基台の下方に、発条等から成る伸縮部材を介して押圧体を上下動可能に付設するという、複式押圧形態を採用する前記構成により、前記(1)の欠点のない、かつ、単板固有のうねり等に起因して堆積枚数の増加につれて変化する堆積位置の平坦度にかかわりなく、搬送単板を所定位置へ正確に精度良くしかも能率良く堆積することができる(補正明細書11頁16行ないし12頁6行)という作用効果を奏するものである。

5  その他の争いがない事実

引用例には、別紙第二の各図が添附されている(この点のみ甲第6号証により認める。)が、審決認定の技術内容が記載されている(ただし、第3図の圧下脚片6、発条及び水平杆6’の構成に関する部分を除く。)。

また、本願考案と引用例記載のものとの一致点(ただし、「発条等から成る伸縮部材を介して」との部分を除く。)及び相違点は、審決認定のとおりである。

二  争点

原告は、審決は、引用例記載のものの技術内容を誤認して一致点の認定を誤り(取消事由1)、また相違点〈1〉の判断を誤り(取消事由2)、本願考案と引用例記載のものとの技術的思想の差異を看過して相違点〈2〉の判断を誤り(取消事由3)、さらに、本願考案の奏する作用効果の顕著性を看過したものであり(取消事由4)、違法であるから、取り消されるべきである、と主張し、被告は、審決の認定判断は正当であって、審決に原告主張の違法はないと主張している。

本件における争点は、上記原告の主張の当否である。

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、「第3図には、圧下脚片6の上方に発条の図示記載があるが、この発条については、第5図をも併せ考慮すると、水平杆6’の下方に該発条を介して圧下脚片6を上下動可能に付設した構成であることが十分に推認できる。」と推認したうえ、引用例記載のものの「発条」が本願考案の「伸縮部材」に該当するとの認定を前提にして、本願考案と引用例記載のものとが「発条等から成る伸縮部材を介して押圧体を上下動可能に付設した」構成において一致している、と判断している。

しかしながら、引用例には「発条」に関する記載は全くなく、第2図及び第3図にそれらしき部材が描かれているのみであり、第5図はベニヤ単板の積重ね状態を示す側面図で、水平杆6’の両端から垂下している部材が何を表わしているのかは判断できず、第3図の要部側面図を見ても、圧下脚片6は第5図の符号6とは対応せず、まして第5図から第3図における圧下脚片6の上部に配置されている発条なるものを読み取ることはできず、第6図において符号6がいずれも両側の太い部分を表示していることからこの太い部分が圧下脚片であるとしても、その上部に位置する細い部分を発条と断定することは第3図との位置関係から矛盾がありすぎる。

また、引用例記載のものは、後記2のとおり堆積済み単板に単板を押圧させて堆積するものではないので発条等から成る伸縮部材を介在させる必要もないし、仮に、堆積済み単板に単板を押圧させて堆積するものであったとしても、後記3のとおり敢えて発条等から成る伸縮部材を介在させる必要がなく、いずれにしても、引用例の図面に記載された発条状の部材が発条である必然性は全くない。

したがって、第3図に表されている部材を「発条」と認定することは無理であるというべきであり、上記の一致点の認定判断は誤っている。

さらに、仮に引用例の図面に記載された発条状の部材が発条であるとしても、当該発条の働きは、この発条を介して取り付けられている圧下脚片6を、案内杆7、7間に位置したベニヤ単板8の(圧下脚片6の長手方向の)傾斜状態に対応させるものであって、押圧体を上下動可能にするものではなく、いずれにしても、審決の上記一致点の認定判断は誤りである。

2  取消事由2(相違点〈1〉に対する判断の誤り)

審決は、相違点〈1〉について、「堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積する」ものが、従来周知の技術であり、しかも、少なくとも引用例記載のものがこの「押圧させて堆積する」構成を排除する理由は何も存在しないから、この従来周知の技術を引用例記載のものに適用して、相違点〈1〉における本願考案のように構成することは当業者が必要に応じてきわめて容易になし得ることである、と認定判断している。

確かに、引用例には、堆積済み単板の堆積位置へ単板を堆積するために単板を押圧するか否かについてはっきりした記載はない。

しかしながら、引用例第1図の平面図におけるベニヤ単板8両端の案内杆7、7からのはみ出し具合及び第6図の同両端の外れ具合等を参酌すれば、単板は堆積済み単板に押圧せずに、すなわち単板が堆積済み単板の上に到達する前にピストン杆5は上昇を開始していると判断するのが妥当である。このことは、引用例記載のものでは、第3図においてピストン杆が降下し操作片13がスイッチ17と衝合すると油圧によりピストン杆が上昇に反転する、つまり操作片13とスイッチ17との衝合によってピストン杆が上昇するのであるが、この動作を確実にするためには圧下脚片6による単板の押圧動作以前に両者が衝合するように構成しなければならず、このタイミングを逆にするといつまでたってもピストン杆は上昇復帰することができず、堆積動作は停止してしまうことからも、裏付けられる。

さらに、引用例には、「本発明は切断ベニヤ単板の移送終点に該ベニヤ単板の衝接作用により作動するスイッチを装備し、かつその上に前記のスイッチの閉成により降下する圧下脚片を設け、該圧下脚片の降下作用でベニヤ単板を移送径路の下の台に順次積重ね、単板の降下で衝接したスイッチが開き、圧下脚片を上昇させることを特徴とするベニヤ単板積重機である。」(1頁左欄下から9ないし3行)との記載があり、ベニヤ単板の衝接作用によりスイッチが閉成すると圧下脚片が降下し、そのスイッチの開作動に関連して圧下脚片が上昇することが明らかであり、したがって、スイッチ9から単板8が離れる時点、つまり案内杆7から単板8が外れた時点で圧下脚片6の上昇を開始することが意図されているのである。

そうすると、引用例記載のものは、単板を押圧させずに堆積することが明らかであり、単板を押圧させて堆積することを積極的に排除していると考えられるから、当業者が単板を押圧させて堆積する周知技術を引用例記載のものに適用することがきわめて容易ということはできず、審決の認定判断は誤りである。

なお、被告は、引用例記載のものにおいて、積重台3上に堆積されたベニヤ単板8の高さが操作片13がスイッチ17に衝合する位置まで上昇すると、圧下脚片6は堆積されたベニヤ単板に当接することとなり、その場合発条の伸縮により圧下脚片6は堆積されたベニヤ単板を押圧しながらベニヤ単板8の堆積が可能である、と主張する。しかし、数多くの単板をできるだけ同じ位置に堆積することが要求される堆積装置においては、単板を引用例第2図の積重台3と案内杆7の位置関係から想定される高さから落下させることは考えられないし、引用例出願当時、堆積済み単板の量によって積重台の位置(高さ)が変化する、つまり堆積量が増えるにつれて積重台が下降する技術が周知であった(甲第8ないし第11号証)から、積重台3の高さが堆積済み単板の量にかかわらず不変であったはずはなく、被告の主張は失当である。

3  取消事由3(相違点〈2〉に対する判断の誤り)

審決は、相違点〈2〉について、引用例記載の油圧シリンダーからなる作動機構に代えて従来周知のカム機構、クランク機構等からなる直動式の作動機構を適用し本願考案のように構成することも当業者がきわめて容易になしうることである、と判断している。

しかしながら、本願考案は、明細書に記載されている次のような技術的課題を解決するために、本願考案の要旨記載の構成を採用したものである。

すなわち、「シリンダーの応動性には限界があり、この種のシリンダー作動式の堆積装置では、必然的に堆積能率が低下するという欠点」(補正明細書2頁20行ないし3頁3行)があり、この応動性を高めるためには、「カム機構・クランク機構等の如く、動力が剛体を介して直ちに伝達される作動機構、所謂直動式の作動機構が有効」(同3頁5行ないし7行)であった。しかし、この作動工程が一定である直動式の作動機構により押圧体を昇降せしめようとすると、多数枚の単板を堆積する過程において種々の問題が発生するため、結果的には実用性に乏しかったのである。すなわち、「押圧落下型の堆積装置に於ては、公知の通り、堆積済単板の上面を光電管等から成る高さ検知器で検出し、所定高さに達する都度、堆積台を下降せしめて堆積位置を常時略一定の高さに保つ事により、搬入される単板との接触を回避しつつ堆積姿勢の安定化を図るようにしているのであるが、実際には、第2図及び第3図に例示するように、堆積済単板は、各単板に存在する多数の微細な波打状のうねり或は補強用テープ等の存在によって、堆積済単板の上面は堆積枚数が増加するにつれて徐々に平坦でなくなる傾向にある。この為、堆積済単板の上面を高さ検知器で検知する場合には、堆積済単板と搬入される単板との接触を回避するという目的から、該堆積済単板の最上位面の高さの検出は行うものの、第2図及び第3図に例示するような堆積済単板の中央部付近(堆積済単板押圧位置付近)の高さ検出は行わないのである。そして、堆積枚数が増加するにつれて、堆積済単板の両端部と中央部付近とでは徐々にその堆積単板の高さに高低差が生じて単板上面が平坦でなくなるのである」(同3頁13行ないし4頁15行)。このような状況において、「液体シリンダーの如く作動工程が変化し得る作動機構を採用した場合には、搬入された単板を押圧落下させ、該流体シリンダーの作動工程の変化し得る範囲内で該高低差を吸収して確実に堆積済単板に押圧させて堆積位置へ安定的に堆積する事ができる」(同4頁16行ないし5頁1行)が、「作動工程が一定である直動式の作動機構によって押圧体を昇降せしめるよう構成すると、例えば多数枚堆積された後に押圧落下せしめられる単板は、堆積済単板の上面が平坦ではなく、しかも該堆積済単板の中央部付近の高さは一定ではないので、前記作動工程が一定である直動式の作動機構によって昇降される押圧体では確実に堆積済単板に押圧する事ができない為、堆積の瞬間に残存する空気の抵抗によって正規の堆積位置からずれて堆積される事になるのである。更に言及すると、単板のずれは、単に堆積姿勢の悪化のみならず、例えば先記公報等に開示される如く、他の単板と重ね合わせて合板の品質や単板の歩留りに重大な悪影響を及ぼすので致命的であった。」(同5頁2行ないし18行)。本願考案は、このような従来技術の有する問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題(目的)は、「単板固有のうねり等に起因して堆積枚数の増加につれて変化する堆積位置の平坦度にかかわりなく、単板を所定位置へ正確に精度良く堆積する事であり、而も能率良く堆積し得るようにするものである。」(同6頁1行ないし5行)

これに対し、引用例記載のものは、前記のとおり堆積済み単板に単板を押圧させて堆積するものではないので、ずれ防止の意味で発条等から成る伸縮部材を介在させる必要もないし、万が一、堆積済み単板に単板を押圧させて堆積するものであったとしても、元々圧下脚片を押圧するものが油圧シリンダーであるとするならば、その油圧シリンダー自体の作動範囲内で堆積済み単板の両端部と中央部付近との高低差を吸収することができ、敢えて発条等から成る伸縮部材を介在させる必要がない。

そうすると、引用例の図面に記載された発条状の部材がどのような目的で付設されているかは不明で、発条である必然性は全くなく、このような曖昧な部材と本願考案の最も重要な構成部材とを比較することは無意味というほかはない。また、このような堆積済み単板を押圧しない引用例記載の油圧シリンダーに代えて直動式の作動機構を採用したとしても、それは単に従来の直動式の作動機構を備えた堆積装置そのものになるのであって、単板のずれに関しては何らの解決手段が施されていないことになる。

したがって、引用例記載のものに代えて従来周知の技術を適用して相違点〈2〉に係る本願考案のように構成することは、当業者がきわめて容易になしうることであるとした審決の認定判断は、誤りである。

4  取消事由4(本願考案の格別な作用効果の看過)

審決は、本願考案の奏する作用効果は、引用例記載のもの及び従来周知の技術が有する作用効果から当業者が予測することができる程度のもので、格別のものとはいえない、と認定判断している。

しかしながら、本願考案は、前記3記載の技術的課題(目的)を解決するために、前記構成を採用し、その結果、本願考案に係る伸縮部材は、押圧体3と堆積済み単板11とが必ず当接し、従来直動式作動機構が吸収し得なかった高低差を吸収でき、落下単板を所定位置に精度かつ能率良く堆積することができるという顕著な作用効果を奏するものであるのに、審決はこの顕著な作用効果を看過したものである。

第三  争点に対する判断

一  取消事由1について

1  原告は、引用例の別紙第二の第3図に発条状に表された部材を発条と認めることは無理であり、引用例には発条に関する記載はない、と主張する。

しかしながら、甲第6号証によれば、引用例の別紙第二の第3図は、引用例記載の発明に係るベニヤ単板積重機の一実施例の要部の側面図である(引用例1頁左欄13行ないし15行)ことが明らかであるが、乙第1、2号証によれば、Douglas C. Greenwood編・松下電器産業株式会社電化事業本部技術研究所生産技術研究会訳「機械設計データブック」(日刊工業新聞社昭和40年6月30日初版発行、昭和50年11月80日11版発行)の圧縮ばねの張力調整方法の項(特に460頁図13、461頁図21)、小間登著「機械器具設計便覧」(太陽閣昭和26年2月10日初版発行、昭和37年9月5日6版発行)の金属線のばねの項(特に214頁591図)には、圧縮ばねの図として、引用例の別紙第二の第3図の螺旋状に描かれたものと同様の図が記載されていることが認められる。そうすると、当業者であれば、同第3図の螺旋状の表記は、発条としての通常の作図法に従っていると理解しうるということができる。

そして、甲第6号証によれば、引用例の別紙第二の第5図、第6図は、引用例記載の発明に係るベニヤ単板積重機の一実施例におけるベニヤ単板の積重ね状態を示す側面図である(引用例1頁左欄13行ないし16行)こと、引用例には、「4は移送枠の直上に設けた油圧シリンダー、5はピストン杆で、下端に水平杆6’を取付けその両端に圧下脚片6、6を取付け」(同1頁右欄2行ないし5行)との記載があること、第5図、第6図は、関連要素の位置関係等を概略的に示すもので、押圧機構についても、油圧シリンダー4、ピストン杆5、水平杆6’、圧下脚片6の連結関係を概略的に示したものであることが認められ、引用例においては、ベニヤ単板8と接触する部材だけでなく、水平杆6’の両端に取り付けられる部材全体を圧下脚片と称していると理解することができる。また、第5図、第6図において、圧下脚片の下部の太い部分(第5図左側の符号6及び第6図の符号6で表された部分)は、発条が存在する部位を表し、その上部の細い部分(第5図右側の符号6で表わされた部分)は、水平杆との連結部位を表していると解しても不自然ではなく、このように解することを妨げる特段の理由は見当らない。

さらに、引用例記載のものが堆積済み単板に単板を押圧させて堆積するものかどうかはここでは暫く措いて、少なくとも案内杆7、7間に位置したベニヤ単板8の圧下脚片6の長手方向の傾斜状態(同第3図参照)に圧下脚片6を対応させるうえで、水平杆6’と圧下脚片6との間に発条を介在させることは意味のあることと認められる。

したがって、引用例の別紙第二の第3図に螺旋状に表された部材は発条であると認めるのが相当であり、上記の原告の主張は失当であり、この点に関する審決の認定判断に誤りはない。

2  原告は、審決の一致点認定が誤りであるとする根拠として、引用例の図面に発条が記載されているとしても、その発条の働きは、圧下脚片6を案内杆7、7間に位置したベニヤ単板8の(圧下脚片6の長手方向の)傾斜状態に対応させるものであり、押圧体を上下動可能にするものではない、と主張する。

甲第6号証によれば、引用例記載の前記発条は、ピストン杆5に取り付けられた水平杆6’と圧下脚片6との間に介在していること(第3図、第5図、第6図)が認められる。そして、甲第6号証を検討しても、この発条の具体的な周辺構造、具体的な機能についての明示的な記載は見当らない。

しかしながら、乙第3号証、第9ないし第11号証によれば、昭和17年実用新案出願公告第3838号公報には、「搖動杆(1)ノ上端部ト緩衝杆(7)ノ上端部ハ發條(9)ヲ以テ連結シ」(上欄20行ないし22行)及び「緩衝杆(7)ノ存在ニヨリ往復片(11)ノ往復運動距離ニ一定ノ制限ヲ生シタル場合或ハ之カ大巾ニ變化スルニ於テモ安全ニ其運動傳達ヲ計り得ルナリ」(下欄4行ないし7行)との記載があること、昭和49年実用新案登録願第4112号の実用新案登録願書添附の明細書及び図面を撮影したマイクロフィルムには、「この押圧部材(8)の上部位置には、スプリング(10)等を備えさせて単板(1)を押え付けるに際し、緩衝機能を発揮する構成としてある。」(明細書4頁2行ないし5行)との記載があること、昭和51年特許出願公開第106137号公報には、「この加圧体(6)は共通の取り付け板(7)に弾条機構(8)を介して夫々揺動自在に取り付けられた複数の加圧体(中略)を有してなる。」(2頁左上欄11行ないし14行)、「弾条機構(8)は、例えば複数の皿ばねが積み重ねられた構造となし得る。」(2頁右上欄14行ないし15行)及び「接着体(1)の接着面が積極的若しくは、不本意に彎曲した面であっても、この彎曲した凹凸面に追従して、加圧体(9)が揺動して傾いた状態で接着体(2)を接着体(1)に向って押し付けることが出来るので、両接着体(1)及び(2)は各部に於て略々均一な圧力をもって密着される。」(2頁左下欄5行ないし11行)との記載があること、昭和52年実用新案登録願第83071号の実用新案登録願書添附の明細書及び図面を撮影したマイクロフィルムには、「仮押圧板4が印刷物束1の上面に達すると上記印刷物束1の反り上がった四隅を圧縮バネ5の力で仮圧縮し、更に上記圧縮装置が降下すると上記圧縮バネ5が撓み上記仮押圧板4は更に上記印刷物束1の四隅を仮押圧して上記印刷物束1の上部を水平に近い状態とする。」(明細書5頁1行ないし6行)との記載があることが認定でき、押圧又は圧縮装置の作動機構、一般のクランク機構等において、緩衝、押圧力(圧接力)の調整、部分的な行程差の吸収、行程の変化への対応等種々の技術的課題(目的)のために発条が介在させられているが、いずれの場合にも発条の伸縮作用が利用されうる構成とされていることが認められる。

したがって、引用例記載の上記発条を介在させた技術的課題(目的)が何であれ、ピストン杆5に取り付けられた水平杆6’と圧下脚片6との間に上記発条が介在しているのであるから、圧下脚片6は、発条の伸縮のもとに上下動できるようになっていると理解することができる。

もっとも、甲第12号証の意見書において、原告は、引用例の別紙第二の第3図に螺旋状に表されたものが発条であるとしても、その発条は引張りバネであり、発条の両側の部材は、上部の水平板の下面にその上端部が当接する当接板であると推測され、発条は、圧下脚片6を案内杆7、7間に位置したベニヤ単板8の(圧下脚片6の長手方向の)傾斜状態に対応させる働きをする、との意見を述べている。

しかしながら、仮にこの原告の意見のとおりであるとしても、圧下脚片6は、案内杆7に支持されたベニヤ単板8を押圧落下させる際に、ベニヤ単板8の傾斜によって発条の伸縮のもとに水平杆6’に対して相対的に動くと認められるから、圧下脚片6が、水平杆6’に上下動できるように取り付けられているといって何ら妨げない。

そうすると、引用例の図面に記載された発条の働きが押圧体を上下動可能にするものではないとの原告の主張は、採用することができない。

3  したがって、本願考案と引用例記載のものとが「発条等から成る伸縮部材を介して押圧体を上下動可能に付設した」点で一致するとした審決の認定判断に誤りはなく、結局取消事由1の主張は、失当である。

二  取消事由2について

1  甲第7号証によれば、昭和52年特許出願公開第153568号公報(以下「周知例」という。)には、「1.薄単板の両側部をコンベアで支持しながら、繊維方向と直角方向に搬送し、所定の堆積位置まで達した時に、昇降可能な堆積台上に形成される設置面上へ向けて、前記薄単板の中央部を下方に向けて弓形状にたわませて、前記コンベアの内側に設け夫々内方に向って回転する回転軸に、前記薄単板を接触せしめ、前記回転軸の回転によって薄単板の両側部をコンベア及び回転軸の上部から引き出して堆積するようにした事を特徴とする薄単板の堆積方法。2.薄単板の繊維方向両側部を支持し、且つ該薄単板をその繊維方向と直角方向に搬送するコンベアを備え、該コンベアの下位に昇降可能に設置した堆積台を備え、前記コンベアの内側に近接して、それぞれが内方に向って回転するように駆動装置を接続した一対の回転軸を搬送方向と同方向に向けて架設し、前記コンベア間のほぼ中央部上方へ、該コンベアと同方向に延ばした加圧体を薄単板の載置面へ向けて垂直な方向で昇降動作可能に設けて成る薄単板の堆積装置。(中略)4.載置面がコンベアの下方に有り、加圧体が下降運動の終りに前記載置面へ接するような距離だけ離して設置してある特許請求の範囲第2項記載の薄単板の堆積装置。(中略)6.加圧体は薄単板の繊維方向と直角方向の幅と同じか又はそれ以上である特許請求の範囲第2項記載の薄単板の堆積装置。」(1頁左下欄6行ないし右下欄18行)との記載があることが認められるから、本件出願時までに、堆積時に単板を安定して確実に拘束するため堆積位置の上方に搬送された単板を昇降自在な押圧体により押圧した状態で落下させ、かつ堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積する技術が周知であったことが明らかである。

2  前記第二の一3及び5のとおり、引用例には、「本発明は切断ベニヤ単板の移送終点に該ベニヤ単板の衝接作用により作動するスイッチを装備し、かつその上に前記のスイッチの閉成により降下する圧下脚片を設け、該圧下脚片の降下作用でベニヤ単板を移送径路の下の台に順次重ね、単板の降下で衝接したスイッチが開き、圧下脚片を上昇させることを特徴とするベニヤ単板積重機である。」(1頁左欄22行ないし28行)との記載があるが、甲第6号証によれば、引用例には、また、「以下図面について本発明のベニヤ単板積重機の一実施例を説明する。」(1頁左欄29行ないし30行)との記載及び「9は受枠の先端に取付けたスイッチで、該スイッチ9をベニヤ単板8の先で閉成して油圧シリンダー4内のピストン杆5を降下させるのである。10、11は油送管、12はピストン杆5に添設した調整杆で、操作片13を可摺動的に固着し、該操作片13がスイッチ17に衝合することによって油を油送管11より油圧シリンダー4の下に圧送してこれを上昇させるのである。」(1頁右欄8行ないし15行)との記載があることが認められる。

この認定事実のもとで引用例の別紙第二の各図を見れば、引用例の図示実施例において、ピストン杆5は、案内杆7上のベニヤ単板8でスイッチ9が閉成されることによって下降を開始し、ピストン杆5とともに移動する調整杆12に固着された操作片13がスイッチ17に衝合することによって上昇に反転し、また、ピストン杆5すなわちピストン杆5に連結された圧下脚片6の作動行程の下限は、調整杆12への操作片13の固着位置を変更することによって調整されることが明らかであり、このような構成から判断して、特に圧下脚片6によってベニヤ単板8を押圧させて堆積する構成を排除しないと判断することができる。

3  もっとも、原告は、引用例記載のものにおいて、ピストン杆の降下に伴う操作片13とスイッチ17との衝合によってピストン杆が上昇に転ずるが、この動作を確実にするためには圧下脚片6による単板の押圧動作以前に衝合するように構成する必要があり、タイミングが逆になると堆積動作が停止することを一つの根拠として、引用例記載のものではベニヤ単板8を押圧して堆積することはない、と主張する。

しかし、操作片13とスイッチ17との衝合と圧下脚片6によるベニヤ単板8の押圧動作とのタイミングをとり易くするためには必要に応じてピストン杆5と圧下脚片6との間に発条を介在させればすむことは、技術上当然のことであるから、この原告の主張は当を得ていない。

4  そして、本件全証拠によっても、他に単板を堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積するという従来周知の技術を引用例記載のものに適用することを困難にする特段の事情があるとは認められない。

したがって、引用例記載のものが従来周知の単板を押圧させて堆積する構成を排除する理由がないことを根拠にして、この従来周知の技術を引用例記載のものに適用して相違点〈1〉に係る本願考案の構成に至ることがきわめて容易であるとした審決の認定判断は正当であり、取消事由2は理由がない。

三  取消事由3について

1  前記第二の一4の認定事実によれば、本願考案は、単板の堆積装置において、押圧体の作動機構として流体シリンダー式の作動機構を用いることの問題点を解決し、また、カム機構、クランク機構等の所謂直動式の作動機構を用いるうえでの問題点を解決することを技術的課題(目的)としていると認められる。

しかし、甲第5号証、第7号証によれば、本願明細書には、「従来この種の堆積装置としては、例えば、(中略)『薄単板の堆積方法及びその装置』(特開昭52-153568号公報)(中略)等に開示される如く、(中略)単板の上方に位置する押圧体を、流体シリンダーから成る作動機構で下降せしめる事により、該単板を押圧落下させて堆積位置へ堆積するようにしたシリンダー作動式の堆積装置が知られている。」(補正明細書2頁4行ないし18行)との記載があり、また、その本願明細書の記載において従来技術として例示された周知例には、「加圧体6をシリンダー等の作動装置7又は図に示してないがリンク機構によって垂直方向へ昇降可能に設ける。」(2頁左下欄19行ないし右下欄1行)との記載があることが認められるから、押圧体の作動機構として流体シリンダー式のものを用いることはもちろん、所謂直動式のものを用いることも、それ自体は、特に新規なことではないというべきである。

そして、前記一2において検討した結果によれば、従来から、押圧又は圧縮装置の作動機構、一般のクランク機構等において、緩衝、押圧力(圧接力)の調整、部分的な行程差の吸収、行程の変化への対応等種々の技術的課題(目的)のために発条が伸縮部材として介在させられていることが明らかである。

これらの技術背景を考慮すれば、従来周知の、単板を堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積する堆積装置の押圧体の作動機構として、所謂直動式の作動機構を採用し、かつその採用に当り行程の変化又は部分的な行程差等を吸収すべく、発条等からなる伸縮部材を介して押圧体を取り付けることは、当業者が必要に応じてきわめて容易になしうることというべきである。

2  なお、原告は、引用例記載のものにおいて、圧下脚片を押圧するものが油圧シリンダーであるならば、単板を堆積済み単板に押圧させて堆積するものであったとしても、油圧シリンダー自体の作動範囲内で堆積済み単板の両端部と中央部付近との高低差を吸収することができ、敢えて発条等からなる伸縮部材を介在させる必要がない、と主張する。

しかしながら、作動機構が油圧シリンダーであっても、引用例記載のもののように、スイッチ17によりピストン杆の作動行程の終点が所定位置に定められているものでは、作動行程が一定である直動式の作動機構と同様であって、発条等からなる伸縮部材を介在させる必要性において特に差異はないと認められるから、この主張は失当である。

3  また、原告は、堆積済み単板を押圧しない引用例記載の油圧シリンダーに代えて直動式の作動機構を採用したとしても、それは単に従来の直動式の作動機構を備えた堆積装置そのものになるにすぎず、単板のずれに関しては何らの解決手段とならない、と主張する。

しかしながら、この主張は、引用例記載のものが堆積済み単板を押圧しないことを前提にするが、前記二において検討したとおり、引用例記載のものは堆積済み単板を押圧するものを排斥しないのであるから、この主張を採用することはできない。しかも、前述のとおり、単板を堆積済み単板に押圧させて堆積位置へ堆積するという従来周知の技術を、引用例記載のものに適用して相違点〈1〉に係る本願考案の構成に至ることは、当業者がきわめて容易になしうるところ、甲第7号証によれば、周知例には、「本発明は(中略)積み込み精度を必要とする自動合板製造装置への応用が極めて容易に行なえる効果がある。」(3頁左上欄14行ないし右上欄5行)との記載があることが認められ、元来上記の従来周知の技術においても相当の精度で堆積ができることが明らかにされているのであるから、この点からも原告の主張は理由がない。

4  そうすると、引用例記載の従来周知の油圧シリンダーからなる作動機構に代えて従来周知のカム機構、クランク機構等からなる直動式の作動機構を適用し、相違点〈2〉に係る本願考案の構成に至ることは、当業者が必要に応じてきわめて容易になしうる、とした審決の認定判断は、結局正当といわなければならず、取消事由3の主張は失当である。

四  取消事由4について

前記一2において検討した結果によれば、押圧又は圧縮装置の作動機構、一般のクランク機構等において、緩衝、押圧力(圧接力)の調整、部分的な行程差の吸収、行程の変化への対応等種々の技術的課題(目的)のために発条を伸縮部材として介在させていることが認められるから、取消事由4において原告が主張する作用効果は、本願考案の構成から当然に予測できるものにすぎず、前記のとおり本願考案のように構成すること自体が当業者が必要に応じてきわめて容易になしうる以上、原告主張の作用効果が特段のものであるということはできない。

したがって、取消事由4の主張も理由がない。

五  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第一

〈省略〉

〈省略〉

別紙第二

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